マーケティング業務は、増えることはあっても減ることがほとんどありません。

新しい施策が追加され、新しいツールが導入され、新しいレポートが求められる。一方で、成果が出ていない施策や、誰も見ていないレポートは残り続けます。担当者の稼働は施策の維持で埋まり、新しいことを考える時間がなくなる。この状態は、施策を増やせば増やすほど深刻になります。

必要なのは、やることを増やす前に、今やっていることを整理することです。

増え続ける構造

業務が減らない理由は、担当者の怠慢ではありません。構造的な問題です。

やめる判断に責任が伴う
新しい施策を始める判断より、続いている施策をやめる判断のほうが重くなります。やめて成果が落ちたら、やめた人の責任になる。続けていれば、少なくとも責められません。

効果が測られていない
成果が測定されていない施策は、やめる根拠がありません。「効いているかもしれない」という状態が続きます。

担当者が変わると経緯が消える
なぜその施策を始めたのか、何を目的にしていたのかが引き継がれず、作業だけが残ります。数年後には誰も理由を説明できない業務になります。

依頼元が社内にいる
営業部門や経営層からの依頼で始まった業務は、依頼元に確認しないとやめられません。そして確認する手間がかかるため、確認されないまま続きます。

この構造がある限り、意識的に整理する機会を設けなければ業務は減りません。

まず全部を書き出す

棚卸しの第一歩は、現在やっていることの一覧化です。

書き出す粒度

「SNS運用」ではなく、実際の作業まで分解します。

  • 投稿内容の企画(週1回、2時間)
  • 画像の作成(週3本、各1時間)
  • 投稿の実施(週3回、各15分)
  • コメントへの返信(毎日、計30分)
  • 月次レポートの作成(月1回、4時間)

作業と所要時間をセットで記録します。時間が分からない場合は、2週間ほど実測してください。感覚と実態はかなりずれます。

対象に含めるもの

見落とされやすいのが、次のような業務です。

  • 定例会議の準備と出席
  • 他部署からの依頼対応
  • ツールの設定変更やメンテナンス
  • 過去に作った資料の更新
  • 数字の集計とレポート作成

特にレポート作成は、積み上がりやすく、かつ誰も読んでいないことが多い業務です。

4つに分類する

書き出した業務を、2つの軸で分類します。

軸1:成果への貢献度 — その業務が、事業目標にどれだけ直結しているか
軸2:代替可能性 — 自分がやる必要があるか、他の手段で代替できるか

この2軸で、業務は4つに分かれます。

貢献度が高い貢献度が低い
代替できない① 集中する③ 縮小する
代替できる② 仕組み化する④ やめる

① 集中する

成果に直結し、自分でやるしかない業務です。戦略の立案、重要な意思決定、社外との折衝など。ここに時間を確保することが棚卸しの目的です。

② 仕組み化する

成果には貢献するが、自分でなくてもできる業務です。テンプレート化、外部委託、ツールによる自動化の対象になります。

判断のポイントは、その業務に判断が含まれるかどうかです。判断が不要な作業は、手順を書けば他の人に渡せます。

③ 縮小する

成果への貢献は薄いが、やめられない業務です。社内報告、規定の対応など。

やめられないなら、頻度や工数を減らせないかを考えます。週次のレポートを月次にする、資料の枚数を減らす、といった調整です。

④ やめる

成果に貢献せず、他でも代替できる業務です。ここが最も多く、そして最も手がつけられていない領域です。

やめる判断の基準

「やめる」は最も難しい判断です。基準を決めておかなければ、結局すべて残ります。

効果を測っているか

まず、その施策の効果が測定されているかを確認します。

測定されていない場合、選択肢は2つです。測定する仕組みを入れて3か月後に判断するか、測定できないものは止めるか。「測定できないが効いている気がする」という状態を残さないことが重要です。

止めたら誰が困るか

その業務を止めたとき、実際に困る人がいるかを確認します。

社内向けのレポートであれば、受け取っている人に「見ていますか」と聞くのが最も早い方法です。見ていないという回答が返ってくることは珍しくありません。

いつから、なぜ始めたか

開始時期と目的を確認します。目的が達成済み、あるいは前提が変わっている施策は、続ける理由がありません。

3年前に競合対策として始めた施策が、競合が撤退した後も続いている、といったケースがあります。

一度止めてみる

判断がつかない場合、期間を決めて止めてみる方法があります。1か月止めて何も起きなければ、それは不要だったということです。

止めることに抵抗がある場合、「休止」という言葉を使うと社内の合意が得やすくなります。

仕組み化の進め方

②に分類した業務を、実際に手放していく手順です。

手順を文書化する

まず、自分がやっている作業を手順として書き出します。書けない部分は、暗黙の判断が含まれている箇所です。

その判断を言語化できれば、他の人に渡せます。言語化できないなら、①に分類し直します。

判断が不要な部分だけ切り出す

業務全体を渡せない場合でも、一部は切り出せます。

レポート作成であれば、数字の集計は切り出せますが、そこから何を読み取るかは残ります。集計を自動化するかアシスタントに任せるだけでも、時間は確保できます。

渡す先を決める

選択肢は3つです。

社内の他メンバー:教育コストはかかるが、蓄積が社内に残る
外部委託:即戦力だが、ノウハウは外に出る
ツール:初期設定の手間はかかるが、以後は稼働ゼロに近い

判断が不要で反復する作業はツール、判断が必要だが専門性が高い作業は外部委託、育成したい領域は社内、という切り分けが基本です。

品質基準を決めてから渡す

渡したあとに「思っていたのと違う」となるのは、基準を伝えていないためです。

完成物の例を示す、確認するポイントを列挙する、修正が必要な場合の判断基準を伝える。この3つがあれば、手戻りは大きく減ります。

施策ごとの見直し

具体的な施策について、確認すべき点を挙げます。

広告運用

  • 各キャンペーンのコンバージョン単価を把握しているか
  • 単価が目標を上回っているキャンペーンを止めているか
  • 手動で行っている入札調整は、自動化できないか
  • レポートは意思決定に使われているか

SNS運用

  • 目的が定義されているか(認知、リード獲得、採用広報など)
  • フォロワー数以外の指標を見ているか
  • 投稿頻度は、成果と連動しているか
  • 手が回らずに惰性で続けているアカウントはないか

メール配信

  • 開封率、クリック率を配信ごとに確認しているか
  • 反応のないリストへの配信を続けていないか
  • 配信ごとに目的が設定されているか

コンテンツ制作

  • 制作した記事や資料の閲覧数を確認しているか
  • 過去のコンテンツの更新と、新規制作のバランスは適切か
  • 制作の目的が「更新頻度の維持」になっていないか

展示会・イベント

  • 獲得した名刺のうち、商談化した件数を追えているか
  • 出展費用に対する回収を計算しているか
  • 出展の判断が前例踏襲になっていないか

レポート作成

  • 各レポートの読み手を特定できるか
  • 読み手は実際に読んでいるか
  • 意思決定に使われているか、報告のためだけか

棚卸しを定例化する

一度整理しても、時間が経てば業務は再び増えます。

半年に一度の見直し

半期に一度、同じ手順で棚卸しを行います。前回の一覧と比較すれば、何が増えたかが分かります。

新規施策を始めるときのルール

新しい施策を始める際に、次の3つを決めておきます。

目的:何を改善するための施策か
判定時期:いつ効果を判定するか
判定基準:どの数字がどうなれば継続、そうでなければ中止か

これを決めずに始めた施策は、やめる根拠を持たないまま残り続けます。

増やすときに減らす

新しい施策を1つ追加するとき、既存の施策を1つ止める。この制約を設けている組織もあります。

厳密に運用する必要はありませんが、追加の判断時に「何を止めるか」を考える習慣が生まれます。

まとめ

  • マーケティング業務は、意識的に整理しなければ増え続ける構造にある
  • 棚卸しは、作業レベルまで分解して所要時間とセットで書き出すことから始める
  • 「成果への貢献度」と「代替可能性」の2軸で、集中・仕組み化・縮小・中止に分類する
  • 測定していない施策は、測定するか止めるかのどちらかを選ぶ
  • 判断が含まれない作業は、手順を書けば手放せる
  • 新規施策を始める際に、判定時期と判定基準を先に決める

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